クリニック・サロンの待合室に飾る絵 ― 患者さんと医師で「選ぶ絵」がちがった研究と、選ぶときに見ておきたいこと

クリニックやサロンの待合室は、通う方がいちばん長く過ごす場所のひとつです。待合室に飾る絵は、どう選べばよいのでしょうか。患者さんと医師で「選ぶ絵」がちがった研究や、自然の絵を置いた待合室の調査をもとに、選ぶときに見ておきたいことをまとめました。

待合室は、通う方が「待つ」場所

厚生労働省の「令和2年受療行動調査」によると、外来の患者さんが不満に感じたことで最も多かったのは「診察までの待ち時間」で、24.1%でした。待つ時間は、どの医院にもあります。その時間に目に入る壁に、どんな一枚があるか。待合室の絵を考えることは、通う方の過ごし方を考えることでもあるのだと思います。

同じ調査では、医療機関についての情報を得る先として、外来の患者さんの71.1%が「家族・友人・知人からの口コミ」をあげています。医院の印象は、通う方の言葉で広がっていきます。

患者さんと医師で、選ぶ絵がちがった研究

ドイツのキール大学病院のアンナ・バランディンさんたちは、2025年に、病室に飾る絵の好みについての研究を発表しました(論文は『Wiener Medizinische Wochenschrift』に掲載)。

慢性の痛みがある患者さん、緩和ケアを受けている患者さん、医師の3つのグループ、それぞれ79人に、抽象的な写真作品と、具象の絵画(キール美術館の所蔵品)の中から、病室に飾りたい一枚を選んでもらいました。

  • 患者さん:約3分の2が、自然の景色などを描いた具象の絵を選んだ
  • 医師が「患者さんのために」選んだとき:具象の絵は42%
  • 医師が「自分のために」選んだとき:具象の絵は58%

選んだ理由で多かったのは、「落ち着く」「描かれているものが心地よい」「自然の景色が心地よい」でした。

著者たちは、病室や処置室には自然の景色を描いた具象の絵が合い、人が集まる共用の場所には、抽象と具象を組み合わせるのがふさわしい、とまとめています。医師が患者さんのことを考えて選んだ絵と、患者さん本人が選んだ絵は、ずれることがある。このことも、研究のひとつの結果でした。

自然の絵を置いた待合室で起きたこと

アメリカでは、ヒューストンの2つの病院の救急の待合室で、自然をテーマにした絵や映像を置く前と後の、待っている人の様子をくらべた調査があります(ウパリ・ナンダさんたち、2009〜2010年。Center for Health Design の助成による研究)。

置いたあとは、そわそわと落ち着かない動きが減り、ほかの人をじっと見ることが減って、会話が増えました。研究者は、待つあいだに目を向けられるものがあることが、落ち着かない様子を減らしたのではないか、と考えています。

病院でアートを取り入れる取り組みについては、ホスピタルアートのこと ― 病院にかかる絵が働くときでも書いています。

待合室の絵を選ぶときに見ておきたいこと

  • 通う方の顔ぶれ:診療科や、お子さん・ご年配の方が多いかどうかで、合う色やモチーフは変わります
  • 自然を感じる色や形:研究で選ばれていたのは、自然の景色や、落ち着く絵でした。海・空・水・花・木を感じる色は、待合室にもなじみやすいと思います
  • 部屋全体の色:医院づくりの解説では、待合室はやわらかい光と、あたたかみのある色調でまとめることがすすめられています。壁や家具の色と合わせて選ぶと、まとまりが出ます
  • 座った目線:待合室では、多くの方が座って過ごします。立ったときだけでなく、座ったときに自然に目に入る高さかどうかも見ておきたいところです(ふだんの目安は絵を飾る高さは?にまとめています)
  • 院長の想いと、通う方の気持ち:研究のとおり、選ぶ側の好みと、見る側の好みはずれることがあります。両方を考えて選べるとよいと思います

オーダーで描くときに、うかがうこと

わたしがクリニックやサロンのための一枚を描くときは、描く前にお話をうかがいます。院長やオーナーの方が大切にしていること、医院を始めたときの想いに加えて、通う方に待合室でどんなふうに過ごしてほしいか、どんな方が多く来られるかも一緒にうかがって、色と大きさを考えています。

会社や医院のための一枚はBUSINESS ART(クリニック・サロン)のページにまとめています。

まとめ

  • 外来の患者さんの不満で最も多いのは「診察までの待ち時間」24.1%(厚生労働省)
  • キール大学病院の研究では、患者さんの約3分の2が自然の景色などの具象の絵を選び、医師が患者さんのために選んだ絵とはずれがあった
  • 著者たちのおすすめは、病室には自然の景色の具象の絵、人が集まる共用の場所には抽象と具象の組み合わせ
  • 自然の絵や映像を置いた救急の待合室では、落ち着かない動きが減り、会話が増えた
  • 選ぶときは、通う方の顔ぶれ・自然を感じる色・部屋全体の色・座った目線・院長の想いと通う方の気持ちを見ておく

※ ここで紹介した研究は、絵による治療の効果を約束するものではありません。

【参考にした情報・引用元】

  • 厚生労働省(令和2年受療行動調査(確定数)の概況)
  • Wiener Medizinische Wochenschrift(Comparison of art preferences in patient rooms between chronic pain patients, palliative care patients and physicians)Anna Balandin ほか, 2025年
  • The Center for Health Design(Impact of Visual Art on Patient Behavior in the Emergency Department Waiting Room)Upali Nanda ほか
  • Healthcare Design(Impact of Art on the ED Waiting Experience)
  • Medicom Park(クリニック設計の肝は待合室とトイレ。リピート率を高める内装)

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